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Empyreal: Spells & Steam ファーストインプレッション

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Empyreal: Spells & Steam

BGG
https://boardgamegeek.com/boardgame/220367/empyreal-spells-steam

Kickstarter

https://www.kickstarter.com/projects/2022657250/empyreal-spells-and-steam/description

 

全国165人(=バッカー数)のLv99Games信者の方々お待たせしました。別に誰一人としてこの記事を待っていなかったとは思いますが、一人だけは、そう私だけはEmpyrealの記事を書ける日が来ることをずっと待っていたのです。

 

あれは約1年と半年前、和訳神様がArgent The Consortiumのルール和訳を公開してくれたことから始まる。それが罠だと気づいた時にはすでに米Amaで購入してしまっていて、その後、大量のカードの翻訳と日本語化に、実に3週間かかったのだった。ただ、今思えばピュアユーロではない、いわゆるアメリトラッシュ(※1)的なゲームに最初に出会ったのがArgent The Consortiumで良かったと思う。作り込まれた背景世界の魅力は、作り込まれたゲームシステムと同じくらいゲームそのものを面白くさせる要素なのだと改めて気づかせてくれたからだ。

 

(※1)ピュアユーロとアメリトラッシュ

システムを重視して背景世界を犠牲にしたのがピュアユーロ、背景世界を大事にしてシステムを犠牲にしたのがアメリトラッシュ、と一般的には言われている。ピュアユーロのゲームでは何を表現しているか分からないルールがある(このルールが必要なのは分かるけど、なぜサイコロの出た目の土地からしか収穫がないんだい?)一方で、アメリトラッシュには背景世界を表現するためだけのルールがゴテゴテと付けられている、ことが双方の対比的な特徴である。この区分はもともとピュアユーロの世界の方から発信された造語なので、「アメリトラッシュ」であることは否定的なものとして語られることが多い(何せ“ピュア”と“トラッシュ”、“清純”と“ゴミ”だ)。では一方で、アメリトラッシュの方からはピュアユーロをどう見ているのだろうか。これはアメリアナログゲーム界の巨人であるMTG(Magic;the Gathering)からの発信を見るのが手っ取り早いだろう。MTGではゲームが持つピュアユーロとアメリトラッシュという同じ側面を、主に受け取り手であるプレイヤーを分類することで表現している。詳しくはこちら 

MTGではゲームのシステム部分の美しさを重視するプレイヤーを「メルヴィン」、フレイバー(背景世界や雰囲気やストーリー)の美しさを重視するプレイヤーを「ヴォーソス」として分類している。メルヴィンが好むのがピュアユーロ、ヴォーソスが好むのがアメリトラッシュ系のゲームになる。MTGではどちらも等しく大事なことだとしているが、「どちらも同じくらい大事」である以上にMTGの捉え方ががユーロゲームと決定的に異なるのは、メルヴィンとヴォーソスの構成を足すと100%になるのではなく、最大200%になると考えていることである。どういうことか説明するために、MTGがプレイヤーを分類するためのもう1つの軸である「ティミー」「ジョニー」「スパイク」について見てよう。この3つはそのプレイヤーがゲームで何を成し遂げた時に最も満足感を得るか、逆に言うと何を目標にしてゲームを遊んでいるかの分類である。詳しくはこちら

ティミーは感動的な出来事を体験したくてゲームをするので、派手な効果のカードを好んで使う。ジョニーは自己を表現したくてゲームをするのでちょっと変わった個性的なカードを好む。スパイクは自分の技術を高めたり確かめたくてゲームをするので、選択肢が多くて自分の技術の良し悪しが反映されるカードを好む。ここで重要なことは、スパイクであることは少なからずティミーではないしジョニーでもない、ということだ。ゲームを遊ぶ目的傾向による分類なので、どれかに寄れば必ず残りの2つから離れる。もちろん誰しも少しずつ要素は混じっているが、スパイク的なカードを好んで使えば、必然ジョニー的なカードを使わない、ということになり、「ティミー」「ジョニー」「スパイク」がそれぞれ「10%」「20%」「70%」などということになる。カードの1枚1枚もそれぞれ、これはティミー向けの分かりやすい派手なカードで、ジョニーやスパイク向けではない、逆にこっちはジョニー向けだ、と定義され、カードもやはり1枚で見ると「10%」「20%」「70%」などとなって、だいたい相克が起こる。つまり、ジョニー向けに作られたゲームは本来ティミーにもスパイクにも売れないのだが、MTGは1セットごとに200枚以上のカードを作ることでそれを克服している。ジョニー向けのカードが60枚以上あるし、スパイク向けのカードも60枚以上あるので、ティミーもジョニーもスパイクも皆が買うのだ。

一方で、「メルヴィン」「ヴォーソス」は共存しうる、とMTGは考えている。それがプレイヤーなら「メルヴィン」「ヴォーソス」それぞれの部分を「90%」「90%」ずつ内包し、MTGが持つゲームシステムも背景世界も両方深く愛しているプレイヤーがいると考えているし、それがカードなら同じく「90%」「90%」で、システム的な美しさとフレーバーの美しさの両方を持ち、ほとんど全ての人に愛されるカードがあるとしている。逆に「10%」「10%」というプレイヤーも存在するし、「10%」「10%」というカードも存在しうる。そのようなプレイヤーはMTG自体に魅力を感じずさっさとをやめてしまうだろうし、それがカードなら、誰からも見向きもされず、大して売れずに商品としては失敗作となる。

さて、ここでメルヴィンを=システム重視=ピュアユーロ、ヴォーソスを=フレイバー重視=アメリトラッシュに戻して説明し直そう。ピュアユーロ側はアメリトラッシュであることを、ある種否定的にとらえていて、アメリトラッシュ成分を0%にして、ピュアユーロ成分100%の完璧な商品が良い商品である、とする傾向がある、気がする。しかしアメリトラッシュ側ではそれらは相克ではなく、両方100%で200%のものすごいゲームが作れるはずだと考えている、気がする(※それぞれ個人の感想です)。そしてユーロゲームとMTGの実際の販売実績、市場規模からみて、どちらの見方がどうなのか、あとはそれぞれの人の見方に預けるとしよう。

 

さて、注釈で大きく脱線してしまったが、これはMTGではなくてEmpyrealの記事であることを思い出した。注釈を読み飛ばさずに読んでしまった奇特な方にはすでに私が何を言いたいか分かってしまっていると思うが、つまりEmpyrealはArgent The Consortiumと同様にすごいゲームだということだ。システム部分はピュアユーロにも氾濫していそうな線路敷設の陣取りで構成されているが、そこにこれでもか、これでもか!というくらいの個別の列車能力とキャラクター能力とプレイヤーごとに異なる初期能力が乗っかってくる。ユーロゲームだと、プレイヤーごとの違いはある意味目立たせてあって、それを1つのゲームの売りにしていたりする。なので隣の芝生が青いのがすごく気になることが多く、それがまた面白かったりする。翻ってEmpyrealは、文字通り何もかも違うので、隣の芝生が青いことがあまり気にならない。青いことは青いのだが、それよりも次に出てくる魔法列車の個別の能力や、次に引くであろう技術者のユニーク能力の方が気になって仕方がない。そしてこれは相克ではないのだ。すべての技術者のユニーク能力や魔法列車の構成を把握したら、その時にはきっと隣のプレイヤーの芝生がくっきりとはっきりと青々と茂っていることだろう。

このようにEmpyrealはピュアユーロ的な楽しみも十分ある。この企業の場合はどう動くのが良いだろうかと後になって考えたり、ゲーム中も効率的な最善手を探そうとしたりできる。実際に後輩Mは主にこのような楽しみ方をしていそうだ。ただ、そうではなく、ではなく、それに加えて、Empyrealには、次と次と登場する個性溢れる魔法列車やキャラクター能力に溺れるという楽しみ方もあるし、システムではない純粋な背景世界の魅力を感じながらプレイする楽しみ方もある。

背景世界の設定はルールブックにあるのだが、この背景世界はぜひ何か別の表現、小説とか漫画とかで出してほしいと思う。

今回のゲームで起こった展開は、2度と再現されないだろう。それはゲームシステムを1度経験して、次回はより洗練されたゲームの選択ができるであろう部分もあるし、登場するすべてが個性的過ぎて、次回はどんな展開になるのか予想もできずにワクワクする部分の両方がある。これは何度でも、何十回でも遊んでみたいと思うゲームだ。

 

Argent The ConsortiumでLv99Gamesを知ったと同時にそれについて調べたら、ちょうどEmpyrealの出資が終わっていて非常に無念に思ったものである。ただ、そこから奇跡が起こってAsobition様がよりによって日本語版を出してくれることになるとは思いもしなかった。ゲーム外での背景ストーリーも感慨深いものがあって、個人的な思い入れが高まっていることもあるかもしれない。